深夜、アズールの部屋。ジェイドは扉をノックして、入りますよと声をかける。だが返事を待たずに中に入った。
 モストロ・ラウンジの閉店後、シャワーを済ませて寝間着に着替えた状態で今ここにいる。ジェイドは普段人前にでる時はきっちりとした格好をしているが、副寮長であるジェイド、そして双子のフロイドがいる部屋から、この寮長であるアズールの部屋までは距離も短く、ほかに部屋もない。日中ならばまだしも、こんな遅い時間に人が来ることはまずないと言っていい。それに、楽な格好の方が、都合がいいのだ。
 アズールもまた寝間着姿でベッドの上に座り、枕を抱えてうつむいていた。
 ジェイドはそのベッドへと歩み寄り、端に腰掛ける。
「意地を張ってないで、最初から素直になればいいでしょうに」
「……うるさいな」
 拗ねた子供のような態度。ふ、と口元が緩む。手がかかるとも言えるけれど、そういうところも、嫌いではないのだ。
 あやすように頭を撫でて、それから柔らかく唇を重ねる。二度、三度と口づけて、それからアズールの眼鏡に手を伸ばした。丁寧に引き抜いて、折り畳んでサイドチェストの上に置く。その動きを視線が追いかけてくることには気づいていた。アズールの方に向き直ると、じっと見上げてくる美しい海の蒼に、自分の顔が浮かんでいる。視力が悪い彼でも、この至近距離でははっきり見えるようだった。まっすぐに強い視線に射抜かれる。
「アズール」
 名を呼んで頬に触れると、長い睫毛が伏せられた。
 そのまま上向かせて、もう一度口づける。歯を立てないように下唇を甘く食んでやると、うっすらと口を開いた。後頭部に手をまわして、深く口づける。歯列をなぞり、口蓋をくすぐって、舌同士を触れ合わせていく。口腔内を余すところなく愛撫するように、舌の裏までたどってやれば、やけに熱っぽい吐息がこぼれ落ちた。
「ん、ぅ……」
 ざらつく舌を擦りあわせて、吸い上げる。舌は繊細な器官だというけれど、こんな所でも性的な興奮を得られるというのは、なんだか不思議だった。
「っん、ん……」
 もぞりとアズールが身を捩る。後頭部から手をおろし、背中から腰まで滑らせていく。もう片方の手でアズールの手首をつかみ、そっとベッドに押しつけた。
 離れた唇の間に、銀糸が伝ってぷつりと切れた。
 ジェイドはアズールに見えるように、舌を出して唇を舐める。獲物を前に舌なめずりするように。
 アズールがこくりと息を飲んだ。その顔には確かに期待の色が浮かんでいる。意地っ張りなところはあるけれど、態度は素直だ。本人は無自覚なのだろうが。
 膝を割ってその間に入り込み、覆い被さる体勢で、貪るような荒々しいキスをする。
 恋人を甘やかすようなキスもいいけれど、激しい方が自分は好みだ。それに。
「んぅ……ふ、ぁ……」
 とろけたような瞳と、甘さを増す声。
 なんだかんだアズールも、激しくされるのが嫌いじゃないのだと、これまでの経験で分かっていた。
 混ざり合った唾液がこね回されて、ちゅくちゅくと濡れた音がたつ。飲み下し切れなかった唾液が、アズールの頬から首筋まで伝って落ちていった。
 キスの合間に、ジェイドはアズールの寝間着のボタンを片手で外していく。さらけ出された素肌を手のひらで撫でれば、アズールはびくりと身体を震わせた。口づけから解放して、今度は肌へと唇を寄せる。白く滑らかな素肌はひどく自分の情欲を煽り立てる。
 このきれいな身をこのまま堪能したい気持ちと、反対に自分の痕を刻んで汚してやりたいという気持ちと。二つない交ぜになるけれど、後者の方が勝った。歯を立てたくなる衝動をおさえて、時折赤い痕を散らしながら下へとおりていく。薄い胸に触れ、指先で小さな尖りをこね回すと、高い声があがった。
「やあ、ぁ……ジェイドっ」
 触れ合うのは久しぶりだけれど、以前よりもっと、敏感になっているような気がする。指だけじゃなくて舌でも愛撫してやれば、砂浜に打ちあがった魚みたいに身体を跳ねさせていた。
 硬くなっていくそこに軽く歯を立てて、吸いあげる。唾液で濡れたそこは妙に厭らしく見えて、興奮する。
 腹の下に感じる、硬い熱。張りつめて苦しそうなそこにも、そろそろ触れてさしあげましょうかと手を伸ばし、衣服越しにそっと撫でた。
「っ!」
 声にならない小さな悲鳴。青い瞳が見開かれる。
「あ、やだ、……あ、ぁ……」
「アズール?」
 彼はふるりと身体を震わせて、荒い呼吸を繰り返している。
「……嘘、だ」
 呆然と呟くアズールの瞳には、涙が浮かんでいた。寝間着の下に手を差し入れて、下着越しに彼の中心に触れる。そこはじっとりと濡れていた。
「そんなに気持ちよかったんですか?」
「……うるさい」
 早々に達してしまったのがよほど恥ずかしいのか、悪態を吐いて腕で顔を隠してしまった。ジェイドはその隙に、アズールの寝間着だけ膝まで引き下ろしてやる。
 ぴったりと肌を覆うボクサーパンツの、さっき触れた一部だけ色濃く変わっている。ジェイドはそのまま、指先でもう一度そこに触れた。
「ねぇ、アズール。濡れてますけど」
「……っ」
 腕の下から、アズールがにらみつけてくる。けれどそんなの、煽るだけだと彼は自覚していないのだろうか。涙の膜に覆われた瞳が、耳まで真っ赤に染まった様が、熾火のようにくすぶる加虐心を煽り立てる。
 下着の上から形を確かめるように性器を撫で、布越しに愛撫してやると、動揺と苛立ちの混ざった声が返ってきた。
「っジェイド!」
 濡れたままで気持ち悪いのか、眉を顰めている。けれどジェイドはかまわずに手を動かした。達したばかりで敏感になっているのか、びくびくと身体を震わせている。またすぐに反応しはじめた中心の、形を確かめるように撫でて、先端を指先でなぞって。布越しに爪を立ててやれば、大げさなほどに腰が跳ねた。
「も、やだ……、あ……ん……」
 そうしているうちに下着の染みは広がっていく。中では窮屈そうに屹立したものが布を押し上げていた。だんだんとアズールの息があがっていくのを感じて、ジェイドは手を離し、薄らと笑った。
「ふふ、ぐちゃぐちゃですね。お漏らしでもしたみたいだ」
「意地悪だっ……」
 それは直前で手を止めたことに対してか、それとも揶揄したことへなのか、両方か。
「はいはい。それで、どうしてほしいんですか」

 2020/05/08公開