夜にふと目が覚めたら、部屋に一人だった。同じ部屋の反対側にあるベッドはもぬけの空だ。スマホで時刻を確認すれば、日付が変わって少し経った位だった。明日は休みとはいえ、ジェイドがこんな時間に部屋にいないなんて。寝る支度をしていたのは見ていたのに。念のため、ジェイドのベッドを確かめてみる。シーツは冷たく、寝ていたけどトイレに起きて行った、なんて理由ではなさそうだった。
 居場所はすぐに検討がつく。いや、何をしているのかまで、予想がつく。それに少し腹が立った。
 ……ずるい。
 浮かんだのはそんな言葉。
 そしてフロイドは、彼がいるだろう場所へと向かう。アズールの部屋へと。
 もやもやした感情のまま、勢いに任せてあけてやろうとしたけれど、思いとどまった。十中八九予想通りだろうと思う。けれど万が一外れていたら、勉強に集中していたり、寝ているところを起こしでもしたら、めちゃくちゃ怒られる。長い説教を受けるのはだるい。
 なので、そうっと静かに扉を開けた。その隙間からは明かりが漏れていて、次いで聞こえてきたのはアズールの声。
「……」
 やっぱり。ベッドの上にいるのは、アズールとジェイド。何をしてるか、なんて説明するのも野暮というものだ。
 ジェイドはすぐにこちらに気づいたようで、一瞬目を見開いていたけれど、すぐに口元に人差し指を立てて、静かにするようにとジェスチャーで伝えてきた。
 フロイドはため息を吐いた。黙って見てろと。まぁ、いいけど。
 アズールは気づいていないらしい。気づく余裕もないのかもしれない。うつ伏せで枕に顔を押しつけて、それでも甘ったるい声をあげながら、ジェイドにされるがままになっている。背後から組み敷かれ、雄に貫かれて揺すぶられて。どうやらそれはアズールにとってひどく気持ちいいことらしい。
 まあ、するのはこっちも気持ちいいけど。改めて見ていると、ジェイドのあんなのいれて、痛くねぇのかな……なんて思ってしまった。
 大きさもさほど変わらない自分が最初に同じことをしたときは、痛い痛いって騒いで泣いてたのに。身体が慣れたのだろうか。
「ジェイド……っ」
 アズールがジェイドの名前を呼ぶ。なんだか、面白くない。
 フロイドは二人の後方に、静かに移動する。もうすぐ終わるだろう、と大人しく待っていることにする。途中で止められたらオレも腹立つし。二人とも怒ると怖いし面倒だし。
 いい子で待っていて、次に相手をしてもらった方が賢明だ。
 この位置だとアズールの顔は見えない。ジェイドも今は、アズールの方に集中している。ジェイドの外見は自分と似ているけれど、こういう時にも同じ顔をしているのだろうか。
 どれほど時間が経ったのか、フロイドが考えることに飽き始めた頃、ようやく二人の行為は終了したらしい。
「あ、おわったー?」
 へらっと笑いながら声をかけると、アズールはぎょっとした顔で勢いよく身体を起こした。眼鏡をしていないからこの距離だと顔ははっきり見えないはずだが、輪郭がぼやけていても声だけでも分かるだろう。
「フロイド!? いつの間に」
「さっきからいたのに、全然気づかねーんだもん」
 フロイドは、アズールに近づいていく。アズールは逃げるように身を引いた。ジェイドは止めるでもなく、ただ傍観している。というか、単純にこの状況を楽しんでいるようだったが。
「二人だけで楽しいことしてオレだけ仲間外れとかずるくない?」
「ずるい、って……」
 しかしベッドの上、逃げ場なんてそんなにない。
「なんで? オレとはヤなの?」
「そういうわけでは」
 フロイドはベッドに上がり込み、アズールに顔を近づける。
「じゃあ、オレにもしてくれるよね?」
 アズールが視線を泳がせる。
 フロイドは下着ごと着衣をずらして、硬く猛ったものを目の前に差し出してやった。
「……っ」
 アズールは観念したように、そこに手をのばしてきた。そっと撫でて、それからちゅ、と音を立てて唇を寄せた。
 座れ、と手の動きで促され、アズールが使っていた枕を退けて、そこに腰をおろす。
 脚の間に、揺れ動く銀髪。口に含まれ、指でしごかれて、じわじわと腰が重くなる。本当はもっとちゃんと交尾したいけれど、少しくらいは休ませてあげないと早々にバテられてしまいそうだから、ひとまずこれで我慢することにした。
「んんっ……」
 とても口の中に収まりきらないものをくわえて、時折苦しそうな声があがる。先端を口に含み、吸いついたかと思えば、根元から舌で舐めあげていく。唾液と先走りで濡れる先端を指先でなぞり、また口に含んだ。
 口の中は濡れていて、あつくて、気持ちいい。与えられる快感に、少しずつ追い上げられていく。
「う、あ……やば」
「ぐっ……!」
 不意にこみ上げた射精感に、身震いする。無意識に奥まで突きこんでしまい、呻き声があがった。まずい、と思ったけれど耐える間もなく、フロイドはそのまま精を放った。
 口内から引き抜くと、アズールは口元を押さえて激しく咳こんだ。
 げほ、ごほ、とあまりに苦しそうにしているせいか、後ろにいたジェイドが慌ててアズールの背中をさすり始めた。
「だ、大丈夫ですかアズール」
「ごめんって」
 しまいには咳こみすぎてえずいている。反射的に墨を吐くんじゃないかと思ってとりあえず受け止められるように両手を差し出してみた。――今は人間の身体なので吐き出しても墨ではないのだけれども。
「はあっ、は……」
 肩を上下させ、ようやく落ち着いたのか、アズールは目に涙を浮かべて顔を起こした。
「吐くかと思った……!」
「だからごめんって」
 手も口元も、フロイドの放った精と唾液の混ざったもので汚れていた。ジェイドがアズールの手をとって、タオルで拭いてやっている。
「気をつけてくださいよ!」
 アズールは本気で苦しかったのだろう、声を荒らげて睨みつけてくる。
 でも、涙目で睨まれても。
 よけいに泣かせたくなるだけなのに。
 フロイドはアズールの肩を突き飛ばすように、強く押した。アズールは油断していたのか、そのまま背後に倒れ込んで、ジェイドに抱きとめられた。
「フロイド!」
 アズールの声は怒気をはらんでいる。悪かったなーとは思うけれど、説教を聞いてやる気はない。だって、それよりも。
「うん、ごめん」
「っ、お前、ごめんって言えば済むと」
 言い終わらないうちに、膝の裏に手を入れて足を持ち上げてやる。秘部に自分のものをあてがってやると、アズールは怯えたような声を出した。
「……な、んで、また大きく」
「いいよね、アズール」
 否定の言葉なんて言わせるつもりはないけれど。返事を待たずに一気に腰を押し進めていく。
「うあ、あ……」
 さっきまでジェイドを受け入れていたそこは、簡単にフロイドのものも飲み込んでいった。
「あはっ、すぐ奥まで入っちゃった」
 どろどろに蕩けた中は、離すまいとするように熱く絡みついてくる。
「ねえ、アズール。オレとも、いっぱい楽しもうねぇ」

 2020/05/08公開