賑わう街を、二人で歩くのは楽しい。グリダニアで行われているヴァレンティオンのイベントを見に、シャーレアンから来たグ・ラハ・ティアは平静を装いつつ内心では浮かれていた。愛の日一色に彩られた街はいつもと雰囲気が違っている。浮かれているのは自分だけではないのだろう。
それにしても、純粋にデートだと楽しみにしていたのだが、イベントを我らが英雄殿が手伝っていたとは知らなかった。
顔が広いというか、本当にこの人はなんでもするんだなぁ、と感心してしまう。
だって、彼女は戦闘においても職人としても超一流だし、冒険者としての仕事だって選び放題だ。街中でのイベントの手伝いなんて、他の冒険者でもできそうな仕事だと思うけれど、困っている人を見るとと放っておけないのはもう彼女の性分なのだろう。
……いや、彼女のそんな所も含めて好きなのだけど。
飾り付けされた街を見て、ヴァレンティオンのチョコレートを食べたりして。
そのあと、二人でステージイベントに参加することになった。
愛を語るイベント、というけれど、恋愛に限られた話ではないらしい。
特別な衣装を貸し出されてそれに着替える。揃いの衣装はそれだけで恋人としてのつながりが強くなったようでテンションが上がった。
「何を言うか決まった?」
期待に満ちた目で見つめてくる英雄に、あぁ、とうなずく。
ここにはオレたちを知っている人たちはいない……いや、結構いる気がする。
客席に見慣れた暁のメンバーも何人かいて、こちらに意味ありげな笑みが向けられていた。
なんだか急に恥ずかしくなってきたが、ステージに上がってしまった今、覚悟を決めるしかない。
まずは英雄の方から。
「私は、旅をするのが好きです」
迷い無く、キラキラと目を輝かせて告げる彼女は、未知への期待に満ちあふれている。
「見たことのないもの、新しい出会い、すごくわくわくする。見知らぬ土地で食べたものが美味しかったり、温泉があったりするともっと嬉しい」
彼女の長い旅には、楽しいことばかりではなく、辛いことだってたくさんあっただろうに。それでも、彼女は希望を失わない。
「この世界が大好き。だから、平和になった世界をたくさん見てまわりたい、です」
そう告げると、歓声があがった。
根っからの冒険者なんだな、と思う。彼女の話で聞いた、アゼムの魂に刻まれた性分なのか、彼女自身のものなのか。それはわからないけれど。
次は自分の番だ。小さく息を吐いて心を落ち着かせ、それから話し出す。
「俺は……読書とか研究とか、英雄の物語とか、好きなことはいっぱいあるけど」
今あげた内容は生きがいといっていいほど楽しいし、一種の愛であることは間違いない。
けれど、今のオレはそれ以上に。
隣で自分を見上げてくる彼女の目を見て、はっきりと告げた。
「一番の憧れの人の、幸せそうな姿を見るのが、何よりも好きだ」
「な、っ……」
予想外だったのか、彼女の顔が一瞬で真っ赤に染まった。
歓声やら野次やらなんやら、わぁっと一気に騒がしくなる。
「これは盛大な惚気ですね~。二人ともお幸せに!」
司会の少女が話をまとめあげて、オレたちはステージから降りた。
「なに、さっきの!」
「事実だからな」
真っ赤になって服を掴んでくる英雄に、さらっと返してやる。
「ずるい……!」
「たまにはかっこつけたっていいだろ」
そう言って笑うと、彼女も観念したように笑った。
「普通に旅の話とかしちゃったじゃないー!」
「いいんだよ、あんたはそれで」
悔しいのか頬を膨らませていた彼女が、不意に、ぎゅっと腕を絡めてくる。
「私だって、グ・ラハといる時は幸せだなってちゃんと思ってるから」
「うん」
盛大に惚気たのだ、恋人らしくくっついていたって、今くらいはいいだろう。
「カーラインカフェの限定メニュー、食べにいこ」
「あぁ、楽しみだな!」
憧れの人と、大切な人と、一つずつ思い出を積み重ねられる。そんな幸せをかみしめながら、二人は歩き出した。
2023/02/19 公開