エオルゼアの地で冒険者となった彼女は、やがて暁の血盟という組織に関わることになり、蛮神との戦いや国家間を巻き込む大きな争いにその身を投じていった。
エオルゼアを侵略するガレマール帝国との戦いの後は、千年以上に及ぶ竜詩戦争で七大天竜と戦いもした。さらにアラミゴやドマの解放戦争にも関わり、世界を救う英雄、そして解放者となった。
現在は、本来いた世界とは別の世界に召喚され、世界を脅かす存在である大罪喰いと戦っている。
原初世界と第一世界、二つの世界を救うため闇の戦士となった冒険者。
これは、そんな戦いにあけくれていた闇の戦士の、旅の途中のできごとである。
クリスタリウム、ペンダント居住館。第一世界での拠点として用意された部屋のベッドで、彼女はうずくまっていた。荒い呼吸を繰り返す度に、ヴィエラ族特有のウサギのような長い耳がふるりと揺れる。
「痛っ……」
普段は魅惑的にさえ見える赤く形の良い唇は、今はすっかり青ざめていて、小さな呻きがこぼれ落ちるばかりだ。痛くて苦しい、体が熱い。
溜め込んだ光が抑えきれなくなるような、体の中を食い荒らされるような……。
落ち着け、落ち着けとひたすら自分に言い聞かせる。
おさまれ、おさまれとただ何かに祈り続ける。
けれど祈りむなしく頭が揺らぐ。ぐらりと視界が揺れて、そのまま世界は暗転した。
そして、次に目が覚めた時には、何事もなかったかのように変化は収まっていた。
痛みも消え、熱くも寒くもない。昼寝から目覚めた後、くらいの少しぼんやりする程度の状態。
ただ頭の方はともかく、お腹のあたりにまだ何か違和感があった。腹のあたりをさすってみる。多少筋肉はあるが細く平らな腹部。胃腸のあたりか。昼食は食べ損ねていたから多分空っぽだろう。
ふと、この世界に来てすぐの頃、罪喰い化した女性のことを思い出した。身体ごと作り替えられるのなら、見た目には変化がなくとも、中身がどこかやられていてもおかしくはない。そう思うと、なんだか余計に腹部の違和感が増した気がした。
お腹というか、もっと下が。
腹を撫でさすりながら視線を落とすと、見慣れない何かが視界に入った。
ぴたりと、手の動きが止まる。
「えっなにこれ」
最初は、何か変な虫でもいるのかと思った。
いや虫というにはあまりに大きいが、芋虫というか、それっぽい魔物の一種かと思ったのだ。
けれど違う。
よくよく見れば、見覚えのある何かに似ていた。
長命なヴィエラ族としては若輩の身だが、自分もれっきとした成人女性だ。ある程度ものごとは知っている。
頭の中ではそれが何かを認識していたが、なぜ、それがこんな所にあるのか。思考が結びつかない。
おそるおそる、それに触れてみる。生温かくやわらかな感触と同時に、触れられているという感覚。
露出の高い下着からはみ出した棒状の肉のような物体。ついさっきまでは存在しなかったはずだ。いや、存在していること自体がおかしいのだが。
彼女は手を離し一度、深呼吸した。深く息を吐いて、吸って、吐いて、それからもう一度下を見た。
さきほどの物体は変わらずそこに鎮座していた。
「マジ??」
それから彼女は、声をあげて笑い出した。
一人きりの部屋で声をあげて笑い続ける姿は、端からみたら気が触れたのかとでも思われるだろう。
けれど、あまりの事態に、なんかもう、笑うしかなかった。
――これは、闇の戦士となった冒険者が、苦難を乗り越え世界を救うまでの記録……などではなく。
とある冒険者の身に起きた、珍騒動の顛末である。
2025/04/27 公開
