こんなにたくさんの人にお祝いされた誕生日なんて、初めてかもしれない。
 この基地は、貴銃士たちだけでも、三十はゆうに越えている。それにレジスタンスの仲間もいる。それぞれ任務もあるから全員が一度に集まったわけではないけれど、朝から夜まで――今日会えないからという人たちは前の日にまで。次々と私の元を訪れては祝いの言葉やプレゼントを届けてくれた。
 さっきも、タバティさんの手料理やシャルルくんの手作りケーキを振る舞ってもらった。
 今は賑やかな時間を終えて、少し涼もうと食堂の裏手に出たところだった。澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで、吐き出す。なんだかほっとする。見上げれば月明かりが照らす星空。特別な今日も、残りの時間はもう少ない。
 ふと視線を感じて振り返ると、そこには一人の貴銃士がいた。
「タバティさん」
 名を呼べば、まだ火のついていない煙草を手にしていた彼は、相好を崩した。
「疲れちまったか? あいつら大騒ぎだったもんなぁ」
 まったく、主役は君だってのに。そう言って苦笑する彼は、それでもどこか楽しそうだった。
「いえ、楽しかったです」
 基地の中は大体いつも賑やかだけれど、さっきはそれ以上に盛り上がっていた。
 その様子を思い出して、自然と笑みが浮かんでくる。みんな楽しそうだった。もちろん、私も。
「料理、ありがとうございました。どれも美味しかったです」
「口に合ったのならよかったよ」
 柔らかな表情、優しい声。胸にあたたかいものが広がっていく。
 しばしの沈黙。彼は空を見上げていて、手の中の煙草には、未だ火のつけられる気配はない。
 首を傾げると、彼の瞳が私を捕らえた。優しく細められたブルーグレー。
「俺があげられるものなんて、多くはないけどさ。少しは君を笑顔にする手伝いができたかな」
「そんなことないです。私は、色んなもの、いっぱいもらってます」
 温かな手料理や、自分のために選んでくれた花。つらいときに傍にいてくれる安心感、包み込んでくれるような優しさ。
 この想いだって、あなたがくれたものだ。
「マスターちゃん」
 手の中にあった煙草は、ケースにしまわれてしまった。
 距離が、一歩近づく。ふわりと強くなる、たばこのにおい。これは今持っていたものじゃなくて、彼のまとった、彼のにおい。
 長い指が伸ばされて、触れた先は耳元の……さらりと髪を払って眼鏡に、触れて。
 あ、奪われる。
 そう思った時にはもう、視界を遮るレンズはなくなっていて。
 眼鏡をとったのとは逆の手が、頬を撫でてくる。
 すぐにでも唇が触れてしまいそうなほど近い距離で紡がれたのは、心の底から愛おしむような、優しい声。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
 君に出会えてよかった。
 そうして小さな音を立てて与えられた感触。
 また一つあなたがくれたものが、胸に広がる感情が、なんという名前なのか――私はもう答えを知っていた。

 2019/05/12公開

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