任務を終え、報告にあがったグリダニアの街。ちらほら視線を感じるのが、どうにも落ち着かない。
 街の人達は、英雄と呼ばれる存在が余程気になるのだろう。
 自分ではエオルゼアを旅する一介の冒険者のつもりだったのに、いつの間にやら色々なことに巻き込まれ、英雄だなんて呼ばれるようになってしまった。おかげで日々忙しく、各地を駆け回っている。
 超える力という特別な力を持ち、蛮神にも対抗しうる存在。
 おかげで危険なことも苦労することも多いけれど、今はそれなりに楽しくやっている。
 それは、恋人のおかげなのかもしれない。
 ……旅の途中で出会ったエレゼンの青年、オルシュファン。キャンプ・ドラゴンヘッドを治める彼は、他のエレゼンの人達とはちょっと違って、なんというか変わった人で、最初は驚いたけれど。
 本当は優しくて、芯が強くて、俺を英雄ではなく一人の友として対等に接してくれた。
 数少ない、気を許せる存在になっていて、それがいつしか、彼の人柄に惹かれるようになりーそんな気持ちも受け入れてくれた彼と、恋人として付き合うようになって、しばらくが経った。
 お互い忙しい身で、なかなか会えない。たまにリンクパールで話をする程度のことが多い。
 けれど今日は、なんとか時間をとることができた。昼を過ぎたばかりの時間、今日はこのあと予定もないし、明日も空けてある。
「オルシュファン?」
 ただ、自分がそうだからって向こうも同じだとは限らないけれど。
 仕事中で出られないかとも思ったが、リンクパールで呼びかけてみるとすぐに返答があった。
『お前か。どうした』
「あぁ、久しぶりに時間がとれそうなんだ。だから、少しだけでも会えないかなって」
『そうか! 夜ならば時間もとれるだろう。私の部屋に来るといい』
 聞こえる声も嬉しそうで、胸が温かくなる。
「なら今夜、君の部屋で」
『分かった。待っている』
 すんなりと決まった約束。会うのはどれくらいぶりだろうか。何か手土産に持って行こうか。
 そんなことを考えながら、俺はマーケットを覗いていた。 

     *****

「オルシュファン」
 扉をノックすると、中からオルシュファンが迎えてくれた。
「寒かっただろう。部屋を暖かくしてあるから、くつろいでくれ」
「ありがとう」
 雪の積もった外套を外し、適当に置く。
 オルシュファンの私室は質素で、物が多いわけではない。ベッド、机と椅子、クローゼットなどシンプルな家具が置かれている。一見綺麗に片づけられているようにも見えるが、机の引き出しから書類が飛び出していたり、物が詰め込まれているらしい棚の扉が少し開いていたりする。
 この、布を敷いてテーブル代わりにしているベンチチェストもそうだ。引き出しから少し荷物がはみ出している。急に俺が来ることになって、慌てて詰め込んだのだろうか。
 そう思うとなんだか可笑しくなる。
 怪訝そうに俺を見るオルシュファンに、なんでもないと首を振る。
 それから共に夕飯をとった。少しだけ酒も交わしながら。
 温かいダルメルフリカッセが、凍えた身体にしみわたった。勿論、味も絶品だ。
 猟師風エフトキッシュや挽肉のキャベツ巻きなど、きっとわざわざ俺の為に調理場に言って用意してくれたのだろう。
 会えなかった間の話をしていると、それだけで時間も経ってしまう。
 ふと時計を気にした俺に、オルシュファンは問いかけた。
「今日は泊まれるのだろう?」
「あぁ」
「それはよかった。仕事を片づけた甲斐があるというものだ」
 微笑むオルシュファンに、俺も笑みを返す。
 時間を気にせず、こうして一緒にいられるのはなによりも嬉しい。
 食事が綺麗に片づいた後もずっと話をしていた。
「もうこんな時間か」
 あっという間に夜も更けてしまった。普段ならそろそろ休む支度でも始めるところだが。
「そうだな、風呂に入るか」
 オルシュファンに手を差し出され、その手をとって自分も立ち上がる。
「あ、あぁ」
 いや、期待してなかったといえば嘘になるんだけど。
 やっぱりこうして改まると、恥ずかしいというかなんというか。

 大人が二人入ってもまだ余裕がある程度の広い浴槽。
 肩まで浸かっていると芯まで身体が温まって、疲れが癒される気がする。普通ならリラックスできそうなものだけれど。
 今は少し、落ち着かない。
 オルシュファンをちらりと見ると、どうやらご機嫌なようで、珍しく鼻歌なんて歌っている。
 恋人になってから、こうして泊まる時は共に少し長めの風呂に入る。そうしてくれている理由も、本当は察している。
「……」
 膝を抱えて、俯く。湯のせいだけでなく顔が赤くなっていそうだったから。
 恋人として、深い関係になって。気持ちは幸せなんだけれど、やっぱり種族の差、体格の差で身体の負担はないわけじゃなくて。オルシュファンの為ならそんなことは大した問題ではないのだけど、彼はそうは思わないようで。
 つまりは、こういう時間で心身共に緊張を解きほぐせるようにしてくれているのだろうが。
 なんだか少し、焦らされているような気にならないでもない。
 再び顔を上げると、オルシュファンと目が合った。
「どうした?」
 問われ、言葉に詰まる。気遣ってくれる気持ちは嬉しくもあるのだ。俺のことを想って、してくれていることなのだから。後の負担が少なくなるのも事実だし。
「いや……」
 つい視線が泳いでしまう。正直に言うのはなんだか気が引けた。
 というか、これを言ってしまうのは俺の堪え性がないみたいじゃないか。内心唸っていると、ふとオルシュファンは笑った。
 濡れた前髪をかきあげ、そのままじっと見つめられる。
 不意に手を伸ばされ、頬に触れられた。
 微かに開かれた唇。なんだかいつもと違う艶っぽい空気に、どくんと心臓が跳ねた。
「お、俺、先にあがるから!」
 俺は勢いよく立ち上がりオルシュファンに背を向けた。
「逃げられたか」
 苦笑する声が聞こえたが、振り返らなかった。

「とはいえ……」
 先に着替えて彼の私室に戻ってきたが、結果は変わらないわけで。
「そんなところに立っていなくともいいだろう」
 部屋を入ってすぐの所に立ち尽くしていたら、あとから来たオルシュファンに苦笑された。
 肩を抱かれ、促されるままベッドに向かう。
 頬に手を添えて上向かされ、唇が塞がれた。
「ん……」
 何度か触れるだけのキスを繰り返し、それからゆっくりとベッドに押し倒される。もう一度、今度は深い口付けを。厚い舌が口内をたどり、舌を絡められる。それだけで頭がぼんやりしてくる。
「……ふ、っ」
 唇が離されると、糸のように唾液が伝った。
 羽織っていたシャツをはだけさせられて、やんわりと胸を揉まれる。最初は、こんなところで快感を覚えるなんて思わなくて、女性みたいに愛撫されることに戸惑ったけれど。触れられているうちに段々硬く勃ち上がってきて、指先でこねられた。
「んぅ……」
 じんわりと下肢に響くような感覚。
 片方を口に含まれて、舌先で突かれるとぞくぞくと腰が震えた。
 けれどわずかに身を捩った瞬間、ふと脚に触れた感触。
「っ、なぁ、オルシュファン」
 呼びかけるとオルシュファンは行為を止めて顔を上げた。
「いつも、さ。丁寧にその……準備、とかしてくれるのは、嬉しいんだけどさ」
 少しずつ言葉を選びながら、彼に告げる。
「俺はそんなにヤワじゃないし、そんな丁寧に扱ってくれなくても、多少乱暴にしたって平気だぞ?」
 ふむ、と口元に手をあて、オルシュファンは考える。
「お前は激しい方がお好みだったか」
「べ、別にそういう意味じゃなくて!」
 予想外の答えに思わず声が大きくなった。
「なんかいつも、俺ばっかりよくしてもらってるっていうか、お前に我慢させてるかなって」
 オルシュファンは納得したように、あぁ、と頷いた。
「私は、何も我慢などしていないぞ」
 突如下肢に伸ばされた手が、下着越しに敏感な部分を撫でた。
「んあっ……」
 不意打ちに思わず高い声が漏れ、慌てて口を閉ざす。けれどしっかり聞こえていただろう。オルシュファンはにやりと笑みを浮かべた。
「お前のこういう表情を、もっと見ていたいだけだ」
「なっ、~~っ!」
 俺は両腕で顔を覆った。
「隠すな隠すな」
「んなこと言われたら無理だって!」
「フフ……恥ずかしがっているお前もとてもイイ」
「意地悪だ!」
 オルシュファンはただ楽しそうに笑っていた。どこまで本心なんだ、と考えるがどれも本心なのだろう。こういうところは少しタチが悪いと思う。……嫌ではない自分も、相当重症だとは思うけれど。
 なんだか悔しくて顔を背けると、頬にキスを落とされた。
「まぁまぁ、そう拗ねるな」
 首筋から鎖骨、胸元へと何度も口づけられる。
 それからまた下肢に触れられ、ひくりと脚が震えた。
「ま、待って」
「どうした」
「下着、を」
 このままだと汚してしまいそうだったから。
 脱ごうとする前に手早く脱がせられて、下肢が露わにされた。硬く芯を持ったそこを握り込まれる。
「っ、あ……」
 長い指で扱かれるうちに、だんだん濡れた音が立ち始めた。先端を強く刺激されて、ますます先走りが溢れていく。
 少しずつ追い込まれていく感覚。けれど寸前で不意に手を離され、俺は思わずオルシュファンを見上げた。
「あ……」
 燻る熱が苦しいのに、彼はそこにはもう触れずに別の方へ手を伸ばした。
 軽く指先で後孔を撫で、それからゆっくりと中に沈められる。
 何度か抜き差しされ、急くように、早々に指が増やされた。
「んぁ、あ……オル、シュ」
 長い指に内をかき回され、締め付けるように収斂したのが自分でも分かった。
「っ……はや、く」
 無意識に口から出ていたねだる言葉に、オルシュファンは一瞬ぱちりと目を瞬かせ、すぐに口元を緩めた。
「仰せの通りに」
 ぴたりと押し当てられた熱が、少しずつ中に入り込んでくる。
「うぁ、あ……」
 内を押し開いてくるそれが奥まで埋め込まれると、息が詰まった。この瞬間だけはどうにも慣れない。
「っ……!?」
 腰を掴んで更に深くまで突き入れられ、衝撃に背がしなる。
 いつもなら、落ち着くまで待ってくれていたし、気遣うように優しくしてくれていたが。
 こう仕向けたのは自分だ。
「あっ、ん……」
 そのまま激しく揺さぶられて、意識が飛びそうになる。
 こんなにも貪るように激しい彼は初めてだった。
「っ、オルシュ、ファン」
 けれど行為とは裏腹に、彼は思いの外真剣な表情で、探るように俺を見ていた。
「苦しくはないか」
「だい、じょうぶ」
 本当は少しだけ苦しい。でもそれ以上に、心が満たされて幸せだった。
 微笑んで見せると、オルシュファンもまた柔らかく微笑んだ。

     *****

 ほとんど裸のまま横たわっていると、唐突にオルシュファンが口を開いた。
「たまには趣向を変えてみるというのもいいかもしれぬな」
 神妙な顔で何かを考えていると思ったら、でてきた言葉がこれだ。
 何をどうしたらそういう結論が出てくるのだろう、と声には出さずとも顔に出ていたかもしれない。
「お前に飽きられてしまったら困るからな」
「飽きるなんてことはないけど……したいことがあるなら、好きにしてくれていい」
 本心を素直に告げると、オルシュファンはじっと俺の目を見つめた。
「ふむ。私は思った以上に、お前に愛されているのだな」
 真顔でしみじみと言われ、つい曖昧な笑みを浮かべる。
「そう面と向かって言われると恥ずかしいんだけど」
 俺はオルシュファンの目を真っ直ぐに見据えて、はっきりと告げた。
「好きじゃなかったらこんなことできないよ、俺は」
「そうだな……ならば」
 もう一度。耳元に落とし込まれた囁きに、苦笑めいた笑みが浮かぶ。
 そんなの断る理由もない。もっと我が侭を言ってもかまわないのに。
「もちろん」
 彼の首に腕を回して引き寄せ、唇を重ねた。

 2016/10/09公開

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